駆け引きは危険で甘く、そしてせつなくて
あの澄ました顔を変えれた事に満足して席に戻ると、また、新たなメールが届いていた。
開かなくても、誰だかわかっている。
澄まし顔の彼をチラッと見てからメールを開いたら、開いたことを後悔する羽目になっていた。
いや、そもそも仕返しなんてしなければよかったと後悔する。
『やってくれたな。里依紗とのキスが上書きされるぐらい甘かったよ。後でまた上書きさせてもらうから、逃げるなよ』
澄ました顔で、よく、まぁー、こんな甘いセリフを仕事中に返してこれるものだと感心させされる。
こちらは仕事に集中できずに、さっきからの仕事の合間のやりとりに翻弄されっぱなし。
落ち着こうとカップの中のコーヒーを口に含み、熱いコーヒーを喉に流してる途中でバチって彼と目が合えば、勝ち誇るように鼻先で笑らわれてゲホゲホと咽せて胸を叩いていた。
周りが気遣う言葉をかけてくれる中、彼はいつもと変わらないまま、視線はパソコンに向けたままで、
「気をつけろよ」
ただ、この一言だ。
誰のせいよと、心の中で文句を言いながら、少しだけヒリヒリする喉を労わるように『はい』と小さく返事をして、周りに大丈夫だと頷いた。