駆け引きは危険で甘く、そしてせつなくて
「りいさ」
体を抱きしめる腕にぎゅっと力が入り、心地いい重みが肩に乗った状態で、名前を呼ぶ声がいつもよりも甘く聞こえる気がして何も考えられない。
抵抗するわけでもなく、ただ、交差する彼の腕の上に手を重ねるしかなかった。
それに気を良くした男は、チュッとこめかみの辺りにキスをする。
「…彼氏みたい」
思わず出た一言は、率直な感想だった。
「彼氏って誰だ?」
「…部長が私の彼氏ですよね?」
噛み合わない会話にお互いエッと思ったのか、緩んだ手の中で体の向きを変えて彼を見つめた。
「そうだ。里依紗と付き合っている間は、俺にはお前だけだ。だから、里依紗も俺以外の男と付き合うのはダメだからな」
そんな事は当たり前の事だと思うけど、愛を信じないこの男には当たり前じゃないから、こんなおかしなことを言っているのだろう。
目の前の男の首に腕を絡ませて、後ろ髪を撫でて微笑む自分は、まるで理沙になった時の気分だった。
「後腐れない女を探していたんじゃないんですか?そんな事言われたら勘違いしちゃいますよ」
彼の本心が出てくればいいのにと思うのに、出てきたセリフは期待していた言葉じゃなかった。
「勘違いなんてさせない」