駆け引きは危険で甘く、そしてせつなくて
一瞬だけ表情が変わった里依紗だったが、また笑みを浮かべる。
「勘違いさせないでくださいね。私が本気になったら困るのは部長ですよ」
本気になってくれよ…
里依紗の最後の男に俺はなりたいんだ。
後腐れのない女なんて言ったのは、そうでも言わないと彼女になってくれないと思ったからだったなんて言えない。
だから、勘違いなんてさせないぐらい愛して俺から離れられなくしてやる。
心が落ちないなら、まずは身体から!
訳のわからない理屈を掲げ、実行あるのみと彼女の小さな顔を両手で包み、逃がさない。
朝の濃厚なキスを思い出して距離を縮めて行くと、彼女の指先が俺の唇に触れキスを止めた。
「朝言いましたよね。会社では辞めてくださいって」
怒った表情も、愛しいと思っているなんて彼女は知らない。
「終業時間は過ぎてる。彼女にキスして何が悪い!」
そう言い切る俺に、彼女は目くじらを立てて睨んでくる。
「部長なら、場所を考えてください」
「仕事を離れたらただの男だよ。そして今は里依紗の彼氏だ。そのうるさい口は塞ごうか!」
次の言葉が返ってくる前に彼女の手首を掴んで唇から離し、キスをして彼女の文句を飲み込んだ。