駆け引きは危険で甘く、そしてせつなくて
唇を食み、重なる唇の隙間に入ってくる男のザラっとした舌に舌を絡め取られて、言いたい言葉を全て奪っていく。
ここが職場だと抵抗する気持ちと裏腹に、キスを深めてくる男の今し方のセリフにときめいてキスを受け入れている自分がいる。
そして、心の奥底で傷つき燻っている。
『勘違いなんてさせない』
後腐れのない女との距離感に線を引かれたと一瞬だけ表情に出てしまった。
わかっている。
勘違いなんてしない。
彼が別れを望めば、潔く別れを受け入れる覚悟はあるつもりだ。
だけど、今は、彼の彼女は私だけ…
私だけを見て、求めてくれる。
抵抗なんて建前でしかない。
唇が触れてしまえば、朝と同じように何も考えられなくなり、貪欲に彼の唇を求めて彼の頭を抱き寄せ、離れる唇を追いかけている。
その唇を今度は彼の指先が止めた。
「職場で煽るな。止まらなくなる」
先に仕掛けたのは誰でした?
キスに夢中になっていた私と違い彼は冷静で、その澄ました表情が変わる姿を見てみたいと思う。
どうしたら、変わるのだろうか?
「こんなキスじゃ、物足りないんですけど…」
意地の悪い笑みを浮かべ
「小悪魔め」
と、男は笑った。