駆け引きは危険で甘く、そしてせつなくて
「お疲れ様でした。お先に失礼します」
フンと鼻息荒く広報室を出て小走りでエレベーターに向かった。
後を追いかけてくる気配もなく、苛立ちが募ったままエレベーターのボタンを押すと、すぐドアが開きそのままエレベーターの中に身を滑り込ませ、ドアが閉まるまで後ろを振りかえらなかった。
俺のかわい子ちゃんって言ったくせに、追いかけるほどの女じゃないんだ。
そっか…
私、契約で結んだ彼女だった。
納得してしまうと、顔を半分手のひらで覆い自然と泣きながら笑った。
あははは、はっはは、グスッ、グスッン、フッふふふふふふ…
キスされたからって、本物の彼女になれないんだった。
彼は後腐れのない関係を望んでいるのに、このままじゃすぐに契約は終わってしまう。
どうしよう…
引き返すべき?
このまま、帰るのが正解?
自問しているうちに、エレベーターは一階に降りていた。
ドアが開き、俯いていた顔を上げるとドアの向こうには、部長が息を切らしてネクタイの結び目を緩めジャケットを脱いでいる姿があった。
うそ、でしょう⁈
どう考えてもエレベーターの方が早いのに、彼の方が先に着いて待ち構えているなんてあり得ない光景に目を見張った。