駆け引きは危険で甘く、そしてせつなくて
「笑ってる」
なんだか、必死に追いかけて来た事を笑われているようで面白くなく、里依紗を置いて歩き出すと、彼女がギュッと腕に抱きつき嬉しそうな表情をしている。
そんな姿を見て
まぁ、いいか!と、思ってしまう。
「初めてのデートだ。どこか行きたいところはないのか?」
「部長と一緒なら、どこでもいいですよ」
心を射抜かれてクラっと倒れそうだ。
なんなんだ!
この無自覚の誘惑は?
さっきまで俺をあの手この手で試そうとしていたくせに、さっきとは別人のように素直な彼女に動揺している。
ドキドキする気持ちを隠して
「里依紗を抱きたい…って」
『言うのは次回の楽しみにしておくから覚悟しておけよ』と言えば、里依紗の事だから何らかの返事をすぐに返してきて、からかって終わるはずだった。
「…いいですよ」
耳まで真っ赤にして俯いている里依紗に、言ったこっちも顔が熱くなる。
まさかだった。
付き合い始めたばかりなのに、もう⁈と頭をよぎったが、彼とは後腐れのない関係を築いていかないといけない。
いつか来る別れまで、どれだけ時間があるのかわからないから、一緒に過ごせる時を無駄にしたくなかった。