駆け引きは危険で甘く、そしてせつなくて
ホテルのエントランスを抜けると、ロビー内の豪華なソファーに座るように促されて彼を待っている間は落ち着かなくキョロキョロとしていた。
「誰かとお待ち合わせですか?」
突然、目の前に立つ身なりのいい若い男性が笑顔で立っている。
「いえ、待ち合わせではないんです…」
『連れを待っているんです』と言う前に、男性が真横に座り囲うようにソファーの背に手を乗せて微笑んでいた。
なんなの?
近すぎる距離に座ったまま横に退いても距離を詰めてくる男性の馴れ馴れしさにムッとなる。
「連れを待っているので失礼します」
立ち上がり、別の場所に移動しようとしたら手首を掴まれ動けない事に、その男性を睨んでいた。
「斗真、その手を離せ」
突如、威圧感たっぷりの声で2人の距離に割り込んだ部長がソファーに座る男性を見下ろしている。
手首を掴んでいた不快な手が離れると同時に、部長の背に隠されている体。
「マジなのか?」
「あぁ、俺の許可なく近寄るな」
「…わかったからその怖い顔をやめてくれ。ちょっと試しただけだよ」
「彼女は他の女達と違う」
今までの彼女達と私は違う…
彼とは後腐れのない関係だって念押しされているようで、彼のシャツの背掴み、傷ついた顔を隠した。