駆け引きは危険で甘く、そしてせつなくて

「行くぞ」


肩を抱かれ、ロビーを通り過ぎてエレベーターに向かう2人の後を楽しそうに笑みを浮かべて追って来る男性は、エレベーターに一緒に乗ってきた。


「どういうつもりだ?」


低い声が自分に向けられた声なのか男性になのか分からず、ビクッと体が揺れる。


「そんな怖い声じゃ、彼女もびっくりしてるよ」


「お前がそうさせているんだろう」


「怖いね!優也より俺の方が優しいよ。乗り換えない?」


ブンブンと首を振り、彼から逃げるように部長の背後に回る。


「ふーん。反応が新鮮でいいね。確かに今までの女達と違う。でも…」


顎に手を乗せ観察するように体を傾げ、こちらを見てくる男の視線から、部長が隠してくれた。


「いい加減にしろ。くだらない用なら降りろ」


「降りたくても、同じ場所に用事があるんだから仕方ないだろう。最上階まで楽しくお話ししようね」


部長が、階を示す表示を苛立ち気に見ている様子を気にもしないで、こちらに微笑んでくる男性の思惑が分からず困惑しながら、私は、最上階のバーに行く事に複雑な気持ちでいる。


部屋をとって抱かれるとばかり思っていたからだった…


突如、エレベーターが止まり、外からカップルが乗ってきたと同時に、部長に引っ張り出されていた。
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