駆け引きは危険で甘く、そしてせつなくて

えっ…


閉まるドアの向こうで部長の知人男性は苦笑し手を振ってきて、思わず、困惑していた事も忘れつられて手を振り返した私を引っ張って歩いて行く。


「まったく油断も隙もない」


「すみません。つい、つられて…」


苦々しく言う声に謝っていたら、ある部屋の前で立ち止まりガチャとドアが開く音…そしてすぐに体が暗い部屋の中に押し込められていた。


センサーライトがほんのりと部屋を照らす光の中振り返ると、不機嫌な表情をした部長が距離を詰めてくる戸惑いよりも、新たな表情を見せてくれた男にときめき今の状況を理解できていなかった。


「こんな腹立たしいと感じるなんて知らなかったよ。契約で縛っても意味がないって事か」


何に腹を立てているのかわからないが、こんな不機嫌な表情をさせたかった訳じゃない。


いつも澄ましている表情が自分に夢中になり、我を忘れた艶めく男の顔を見たかっただけなのに怒らせてしまったと唇を噛み、ただ、彼を見つめた。


「…りいさ」


苛立っていた彼が、ふーと息を吐くと艶めかしい表情になり視線を重ねたまま色気を含んだ声で名前を呼び、私の手首を持ち上げて彼の唇が手首を甘痛く食んだ。


「…何、してるんです?」


「消毒?」
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