駆け引きは危険で甘く、そしてせつなくて
そう言った彼の指先が胸の谷間から臍へゆっくりと動く間、ネクタイを抜き、ボタンを起用に片手で外す男から目が離せないでいた。
じれったい手の動きをして、時たま胸の先端をかすめる指先にピクリと反応する体を楽しんでいる男は、先程まで艶めかしい表情をした人物だろうか。
今、自分には、獲物をいたぶるハンターにしか見えない。
「いやぁ、…部長、焦らさないで」
「俺の名前を呼べよ」
何度も刺激し、そして疼きを残して離れて行く手が憎らしい。
「…瀬戸さん」
目を細め、まだ不満顔の男が首を横に振る。
「ゆう…や‥」
初めて呼ぶ羞恥心から手を伸ばし、男の背を抱きしめて照れくささを隠したかった。
だが、伸ばした腕は宙で掴まり、左右にそのまま倒れベッドに縫い付けられるように押さえられる。
「主導権は俺だ。駆け引きはしない」
そう言い、胸元に強く吸い付き跡を残して行く男は、私の体に限界がくるまで離そうとしなかった。
背にかかる微かな重みに違和感を感じて目が覚めれば、目の前に大好きな男が目をつむり寝息をたてている姿、そして力の入らない体に感じる浮遊感が、昨夜の出来事が嘘ではないと教えてくれる。