駆け引きは危険で甘く、そしてせつなくて
どうしてこんな男がいいのだろう?
答えが簡単に出てくれば、こんなに悩まなくてもいいのに…
ふーと大きな溜息と共に、彼の罵声が飛んだ。
「工藤、やる気がないなら帰れ、目障りだ」
くっそー、さっきと同一人物か?
「すみません。今すぐ取り掛かります」
ここで言い訳なんてしたら、更に彼の怒りを買うと知っている私は、目の前の仕事に取り掛かった。
瀬戸薬品は、先先代の社長が日本中の各家庭に置き薬として薬を売り歩いていたのが始まりで、先代社長が起業し今の社長、つまり瀬戸部長のお父様が今の瀬戸薬品をここまで大きくしたと、企業プロフィールに載っている。
瀬戸薬品がここまで大きくなったのも広報室を立ち上げた事が大きく影響している。世間の健康志向の並みにいち早く気づき、厳密な臨床試験の実施とモニターからの情報収集から多くの消費者にPRし社外広報に力を入れてきたからだ。最近では、アレルギーの多い現代人が増えている事に、皮膚科医の指導の元、皮膚アレルギーのある女性用向け化粧品を開発して売り上げを伸ばし始めているのに、広報室には部長の彼と3名の男性と私を含め5人しかいない為、猫の手も借りたいぐらい忙しい。