駆け引きは危険で甘く、そしてせつなくて

自分とは別の肌の温もりに笑みがこぼれた後、無意識に涙がこぼれていた。


職場では、朝から女性達に向ける笑顔に嫌悪しながらも彼女達に内心では嫉妬して、2人きりのエレベーター内での短い時間に見せる男の本性を自分だけが知っている事に優越感を感じながらも、彼からのスキンシップに戸惑い彼を好きだという気持ちに蓋をして距離をとってきたというのに、呆気なく堕ちてしまった。


恋愛を楽しむだけの後腐れのない女なんてなれっこないのに、無謀な契約をしてしまったものだと思う。


どんなに演じても、心は欲しくなる。垣間見せる独占欲に嬉しく思う反面、この関係もいつかは切れて彼が別の女性の元に行く日が来ると思うと悲しくて胸が痛い。手に入らないと知りつつ肌を重ねて虚しさが残った。


一時でもいいと契約したのに、その一時があやふやで彼に抱かれた喜びも一瞬のものだった。肌を重ねた事ですぐに飽きられるかもしれないという不安から涙が出ていた。


決意した通り、彼を忘れ新しい恋を探していたらこんな思いはしなかったのだろうか?


新しい恋をして彼を忘れることができただろうか?


後悔はしていない…
していないのに、この関係を結んでいなかったら?と考えずにはいられなかった。
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