駆け引きは危険で甘く、そしてせつなくて
偽る恋人達の試練?
今まで見たことのない蕩ける笑顔にドキッとする。
こんな笑顔ができたんだ…
女性達に向けていた笑顔と明らかに違う笑顔を見て、先程まで思い悩んでいたことなんて飛んでいく。
好きだと言えなくても、自分だけに見せる表情を独占できる喜びに、こんな関係になってよかったと思ってしまう辺り、救いようのないバカだと思う。
嬉しさに緩む口元を引き結ぶが、すぐに緩んで、また引き結び直すの繰り返し。
こちらの思考なんてお見通しとばかりに、蕩ける笑顔から意地悪な笑みに変わる男が、頬に手を添えてくる。
「んっ?りいさは朝の挨拶をしてくれないのか?」
甘みを含んだいい声に負け、引き結んでいた唇が開いていた。
「おはようございます…部長」
「部長はないだろう?なんて呼ぶんだったか覚えているよな?」
頬から唇に移動した彼の指が唇の上をなぞる行為が、昨夜の情事を匂わせているようで、一気に茹だったように体中が熱くなり、ゴクンと生唾を飲み込んで間をおいてから答えた。
「…優也?」
見つめる視線から目を逸らすこともできず、改まって呼ぶと照れ臭さく疑問符がつく。
「…あーもう、なんだよ。お前は俺をどうしたいんだ」