駆け引きは危険で甘く、そしてせつなくて
「…会社に遅刻しますよ」
意地悪な顔をする男のせいで、昨夜の甘い夜を思い出し、恥ずかしくて頬を染めながら彼の上から逃げ出しベッド脇に脱ぎ捨てられていた服を拾う為に手を伸ばし集めていた。
時計は、まだ朝の7時前だったが、家に帰って着替えていたらギリギリの時間だった。
「まだ、7時前だ。一緒に朝食でも食べて出勤しよう」
呑気なセリフにイラッとする。
「優也は、いいわよ。男だし、いつも同じようなスーツだし、着替えに戻らなくてもたいして何も言われないでしょうね。でも、私は女なの。同じ服で出勤なんてしようものなら、なんて言われるかわからないんだから、呑気に一緒に朝食なんてしてられないんだから…」
プリプリとした顔で文句を言いながら、衣類を手にしてシャワーを浴びようかどうしようか考えていた。
「いいじゃないか。言わせたい奴に言わせておけよ。2人で昨日と同じ服を着て出勤すれば、あのうるさい女達も静かになるさ。それよりもやっと、りいさから優也って呼んだことの方が俺には大事だ」
はい?
2人揃って出勤でも、女性達から憎悪を向けられると予想できるのに、昨日と同じ服を着て揃って出勤なんてしたら…恐ろしくて考えたくもない。