駆け引きは危険で甘く、そしてせつなくて
いつもの自分ならこういう時は冷ややかに対応するのに、しゅんとして上目遣いで見つめ、甘えた口調になってしまうのは肌を重ねたからだろうか…
「意地悪もしたくなる。彼女が、こうもあっさりと俺を置いて着替えに戻ろうとするんだから⁈」
んっと顎でしゃくり、甘いトーンで鼻先を摘む指は優しい。
後腐れのない関係の契約だったはず。だが、その間は、彼女は私だけだと約束してくれた事を思い出し、至近距離で改まって言われて照れ笑く、その場から逃げ出したくなる。
膝の上から脱出を試みるが、抜け出せないどころか、彼の手が艶めかしく腰をなぞる手に、体に力が入らないのだ。
「もう…戻らないとシャワーを…浴びる時間がないん…です」
「まだ、時間はある。シャワーを浴びたいなら一緒に浴びよう。それから朝食、いや、出勤前にどこかのカフェで済ませるのもいい。俺はその前に里依紗を堪能したい」
彼の口調は、まるで恋人に話しているようだった。
後腐れのない関係なのに…こんなにベタベタとするものなのだろうか?
彼がどういうつもりでいるのかわからないが、契約が切れた時、彼が望む女を演じる為に…自分はこの関係に溺れてはいけないのだ。