駆け引きは危険で甘く、そしてせつなくて

このまま甘やかな雰囲気に流されそうになる。


後腐れのない女…
脳裏に過ぎる言葉が冷静さを取り戻してくれる。


ときめく気持ちを心の奥底に閉じ込め、私は演じなければいけないと瞼を強く閉じ意を決してから彼を見つめた。


「魅力的なお誘いですけど、部長の誘いに乗っても私にメリットがありませんから、一度帰宅して身だしなみを整えて来たいです」


そして、冷静になればなるほど、部長の誘いはデメリットでしかなかった。


昨日は、退社時間が過ぎていたとはいえ、玄関ロビー付近で何人かの社員に部長の腕に抱きついた私を見られていた。


階段を降りて追いかけて来てくれた事が嬉しくて、周りを気にせず無意識の行動だった。


その後、一緒に歩いて行く姿も見られているはず…


すぐ噂になるだろと思いつかないほど、部長とのキスに浮かれていた自分が恨めしい。


だけど、時間が戻るわけじゃない。


それなら噂を最小限に留め、余計な憶測をさせない事が大事だと思った。


女性達の敵意も恐ろしいが、噂ほど恐ろしい物はなく、話が膨らみ大きくなるのはよくある事。


仕事をしづらくなる訳にはいかない。


部長から関係を解消されても、仕事でなら彼の側にいられるのだから…
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