駆け引きは危険で甘く、そしてせつなくて
こんな時、後腐れのない女というのはどうするのだろうか?
わからない…
とにかく、家に戻って出社するにはあまり時間がないということだけはわかっている。
「部長、それじゃ一度帰宅して来ます」
軽く、彼の胸を両手で押して離れようとした手首を捕まえられた。
「さっきからまた部長って呼んでる。それに会社じゃないんだから、硬い口調はしてほしくない」
「…はい……うん。わかった」
目を細めた不機嫌な目つきに言い直した。
「わかったなら、着替えに戻ってきな」
「…うん、帰るね」
後でまた会えるというのに、名残惜しいのか言葉だけでお互い動こうとしていない。
「…ゆうや…手、…」
「あっ、あぁ…」
手首が離れて数秒してから、やっと彼の膝の上から立ち上がりベッドに放り投げられている鞄に手を伸ばし掴んだ瞬間、その手首を引っ張られベッドに膝をついたら抱きつかれていた。
「まだなにか話があるの?」
「…何か忘れてないか?」
「なにってなぁーに?」
「…俺を置いて先に帰るんだろう!」
「あっ、そうだよね。高そうだけどいくらかな?」
鞄の中にある財布を片手で探した。
「チッ…」
小さな舌打ちをする男がいた。