駆け引きは危険で甘く、そしてせつなくて
後腐れのない関係だから仕方ない

朝帰りし、慌ててシャワーを浴びて化粧をし直し着替えてなんとか間に合った。


通常通りエレベーター前で優也の出勤を待っていると、待ち構えていた女性達が驚き騒ついた。


目当ての男のスーツは着崩れ昨日のまま、髪も若干濡れていて、気怠るそうに首を回し歩く姿は、どう見ても朝帰りからそのまま出勤してきたとわかるからだ。


他の男性ならだらしなく見えるその姿もいい男だからか?それとも数時間前まで一緒に過ごしていた相手だからか?男の色香に当てられ見入ってしまう。



それは、私だけではなかった。


「おはよう」


彼の声で現実に戻ってきた女性達が、彼の歩く姿を悲痛な表情で見ているにもかかわらず、誰一人にも声をかけないで私の前まで来た。


そんな彼の態度に、女性らが動揺してる様子なんて彼には関係ないらしい。


いつものように、いや、いつも以上の親密な距離でおはようと笑顔を向ける男の手は、腰を抱きしめている。


「部長、セクハラです」


抱きしめる胸を押して、周囲を見回すようにと視線を送ると、仕方ないというように両手を上げて距離を取ってくれたが、ご機嫌な様子は周囲にダダ漏れている。
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