駆け引きは危険で甘く、そしてせつなくて
彼の態度の違いの不満の矛先は私に向けられ、突き刺さる嫉妬のような視線は鋭く尖っていて、怖くてそちらを見る事ができないほどだった。
彼と一緒に出勤なんてしなくて正解だったとつくづく思う。
「あのー、瀬戸部長」
勇気ある1人の女性が声をかけた。
「んっ、なに?」
ご機嫌な声で振り返る彼に一同が息を呑み、勇気を出した女性が何を言おうとするのか注目する。
「あの、私の勘違いかもしれないんですけど聞いてもよろしいですか?」
「何かな?」
「そのスーツ、昨日もお見かけした気がするんですが?」
「…あぁ、これ…そうだね、よく気がついたね」
誰だって気がつきます…
ここにいる全員が心の中でツッコミをいれていたはずだ。
「昨日は…あの…」
「うん?」
言いにくい事を訪ねようと悩んでいる女性に、周りは手を合わせ頑張れと応援する目で見ている。
「あのですね…朝までどなたかとご一緒だったんでしょうか?」
ギュッと目をつぶり一気に早口で尋ねた女性がソッと目を開けるのを待っていた優也。
「そこはプライベートだからね、察してよ」
ニコッと笑う男に、一同、同じ事を考えたらしく失望し声を失う者、ウルウルと涙を流し隣同士で慰め合う者達がいる。