駆け引きは危険で甘く、そしてせつなくて
重い空気のまま仕事が始まる。
それは私と彼だけの話ではなく、周りにいる部下にも影響を与えていた。
彼らが、上司である彼を時たま伺い見る様子に、申し訳なく思う。いつもならあちこちでキーを叩く音がカタカタと軽快に音を鳴らしているというのに、今日は遠慮がちに音を立てないようにキーを操作している。
いつもと様子が違う部長から発せられるピリピリとしたオーラに、戸惑っている様子だった。
エレベーター内で彼の機嫌が変わったのはわかってはいたが、お昼を過ぎても変わらない彼の態度に、被害者が出てきて、周りから私になんとかしてくれと視線を送ってくる。
どうすれというのだ。
もう…
彼の機嫌の悪さの原因は多分、私だ。
その原因を思い出してみるが、ただ、事実を言って自分自身落ち込んだ記憶しかない。それに彼も抑揚のない声で同意していた。
彼の機嫌が悪くなったのは、たぶんそのあとからなのだが、その原因が思いつかないから困った…
とりあえずいつものように、コーヒーを持って行ってみようと席を立ち、パーテションの奥でコーヒーを入れていた。
何がいけなかったのだろう?
私達の間に思わせぶりな言葉はいらないはずだ。