駆け引きは危険で甘く、そしてせつなくて
なぜ、あんなに不機嫌になるのだろう?
カップにコーヒーを注いでいると背後に立つ気配に振り返った。
壁に寄りかかりながら腕を組んで、こちらを見ていた優也の表情は、無表情で何を考えているのかわからない。
視線を合わせずに、彼にまた背を向けコーヒーをカップに注いだ。
「今日の部長はらしくないですね」
聞こえているはずなのに、返答がない。
口も聞きたくないほど、気分を害したのか?
彼の事は好きだが私は、彼に媚びるつもりはない。何が不機嫌の理由なのかなんて知った事じゃないから、いつも通りにするまでだ。
「コーヒー飲みに来られたんですよね。これ部長の分です、デスクに置いて置きます?」
人数分を乗せたお盆の上から、彼のマグカップを目の前に出した。
無言で、それを受け取った優也は何か言いたげな表情で後をついてくるが、気づかないふり。
各デスクに配ばり出せば、さすがに自分のデスクに戻っていた。
デスクに戻ると、メールが1つ。
『15時に第5会議室』
とだけだが、それは誰だか言わなくてもすぐにわかってしまう。
部長の優也が、席を立ちこちらをチラッと見て出て行った。