駆け引きは危険で甘く、そしてせつなくて

なぜ、あんなに不機嫌になるのだろう?


カップにコーヒーを注いでいると背後に立つ気配に振り返った。


壁に寄りかかりながら腕を組んで、こちらを見ていた優也の表情は、無表情で何を考えているのかわからない。


視線を合わせずに、彼にまた背を向けコーヒーをカップに注いだ。


「今日の部長はらしくないですね」


聞こえているはずなのに、返答がない。


口も聞きたくないほど、気分を害したのか?


彼の事は好きだが私は、彼に媚びるつもりはない。何が不機嫌の理由なのかなんて知った事じゃないから、いつも通りにするまでだ。


「コーヒー飲みに来られたんですよね。これ部長の分です、デスクに置いて置きます?」


人数分を乗せたお盆の上から、彼のマグカップを目の前に出した。


無言で、それを受け取った優也は何か言いたげな表情で後をついてくるが、気づかないふり。


各デスクに配ばり出せば、さすがに自分のデスクに戻っていた。


デスクに戻ると、メールが1つ。


『15時に第5会議室』


とだけだが、それは誰だか言わなくてもすぐにわかってしまう。


部長の優也が、席を立ちこちらをチラッと見て出て行った。
< 69 / 91 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop