駆け引きは危険で甘く、そしてせつなくて
彼の動作一つ一つに、一喜一憂している痛い女が私だ。
視界に入る彼は疲れてくると目頭辺りを鼻をつまむように指で押さえる癖があり、そして、そのまま椅子の背もたれに背を預け天井を見上げため息をつく。
金曜日の恒例だ。
愛を信じないくせに一夜限りの恋愛を楽しむ男は、予定がない限り金曜日は定時に帰る為に、仕事を詰め込み今の状態になる。
そんな彼に、給湯室で温かい蒸しタオルを用意して彼の元に持って行くのは、私の恒例となっていた。
「部長、蒸しタオルです」
「あぁ、ありがとう」
視線も合わないのに、それだけで嬉しくて口元が緩みそうになる。
口元を引き締め、彼が差し出す手のひらに蒸しタオルを乗せると、タオルと一緒に私の手も握ってしまうのも毎回のこと。
そんな些細なことでドキドキして、身動きが取れなくなるどうしようもない私。
「…手を離なしてください」
感情を押し殺し、そう言うのが精一杯だ。
「相変わらずだなぁ…工藤は、優しいのか冷たいのか
、どっちだ?」
「部長が仕事をしてくださる為なら優しくしますよ。それ以外は、論外です」
「全く、俺にそんなこと言うのはお前ぐらいだ」
蒸しタオルを乗せる前に、苦笑しながらの流し目に体温が上昇しだす。