駆け引きは危険で甘く、そしてせつなくて
「…職場ですよ」
恥ずかしさに、そう言うしかできない自分のキャパのなさにガッカリ。
「その職場で、もっとすごい事してるのに今更だろう⁈」
意地悪く、ニヤリと笑う優也が手を繋いできた。
そして、見せるようにその手を上げ
「行くか」
と言って、手を引き歩き出す。
えっ…
「手…まだ、ここ会社です」
ぎゅっと握られ離れない手に慌てふためき、言いたい言葉が出てこない。
まだ会社の中にいるのに、手を繋いでいる姿を誰かに見られたらどうするんですか?
それでも、彼には思った事が伝わったらしい。
「見られてもいい。隠す必要なんてない…里依紗に手を出させない」
まるで、恋人宣言をされているようで嬉しくなる一方、せつなくなる。
恋人同士でもないのに、関係が終わった後の事を何も考えていない優也に心がツキンと痛んだ。
嬉しいのに悲しい…
引っ張っても更にぎゅっと握り、それでもその手から抜けようと手を添え力強く引っ張った。
「諦めて、手を繋がれてろ」
逃げる手を恋人繋ぎに変えられてしまう。
挙動不審になり赤い顔をしたり、青ざめたりと落ち着かないまま、コンフォルトの前に来ていた。