駆け引きは危険で甘く、そしてせつなくて

「ここでいいか?」


そう言われて、パニックになっていた私はやっと我に返る事が出来た。


それでも、言葉が出てこない。


コクンと頷き、繋いだ手を見てまたパニックになる。


手…恋人繋ぎだよ。


勘違いさせないでよ…後腐れのない関係って言ったくせに、これも優也には普通の事なの?


恋人に言うような思わせぶりなセリフ


恋人に囁くような甘く蕩ける声


恋人にするようなキス


それに、隠すつもりのない態度


これ以上、勘違いさせないでと心が乱れていく。


「…優也」


せつなく愛しい人の名前を呼ぶ。


「里依紗、後でちゃんと聞くから…一緒にご飯食べてくれよ」


いつも澄まして余裕顔でいるくせに、こんな時だけ不安そうに言うなんて、狡いと思う。


キュンとしてしまう。


意地悪な表情だったら反論できたのに…


「…わかった」


そう返事した時には、不安そうな雰囲気は消えていていつもの澄ました余裕顔があった。


騙された?


なんだかやられた感が拭えない。


そうこうして考えている間にお店の中にいて、出迎えてくれたのは…誠だった。


驚いた表情の視線の先は、繋がれた手だった。
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