駆け引きは危険で甘く、そしてせつなくて
「…い、いらっしゃい、ませ」
「ペアのボックス席で」
常連のお客さんのように、勝手知ったる口ぶり。
「あっ、はい。…空いてます。どうぞ…」
誠は、なんとか冷静になりながら、席に案内しよう歩き出す。
「里依紗、おいで…」
優也の甘さを含んだ蕩ける声に、嘘だろうって感じで誠は二度見して振り返っていた。
まるで、誠の心の声が聞こえているようだ。
ペアのボックス席はL字になっていて、中庭を一望できるように設置され、隣の席は壁で見えないようになっている。
ほんのりとライトアップされた中庭は、とてもムードがあり恋人達には絶好の夜景だ。
こんな席に座って、隣に好きな人がいたらもう勘違いして当たり前だと思う。
両思い同士のカップル手前の2人なら、絶好の場所だろう。
私達は、いったいどんな間柄なんだろうか?
もう、訳がわからない。
食事中、当たり障りのない会話を楽しみながら、時折、甘く微笑んでキスをする優也に舞い上がり、そして自分を戒める。
勘違いしちゃいけない。
彼がわからない。
恋人同士でもないのに、まるで恋人のような態度に戸惑い、美味しいはずの料理も、最後の方は味を感じる余裕がなかった。