駆け引きは危険で甘く、そしてせつなくて
「りいさ、こっちを向いて」
彼の両手で頬を挟まれて、背けた顔が彼の前にさらされている。
自覚しているぐらい、涙を流して、ぐちゃぐちゃのひどい顔をしている。
こんな顔を見られたくなかったのに…
最後まで後腐れのない女を演じきることができないほど、動揺し、悲しみで胸が張り裂けてしまいそうだ。
唇を強く閉じてないと嗚咽と共に今にも、好きだから別れたくないと叫んでしまう。
言ってしまったら、おしまいだ…
彼の側で部下として働く事も難しくなる。
彼が嫌いな面倒な女になりたくない。
「…短い間でしたが、…楽しかったです」
精一杯の強がり…で、笑みを作った。
上手に笑えているだろうか?
目の前の彼から、何も読み取れない。
今だに拘束された顔をジッと見てくる彼の目から逃れられないまま、沈黙が続いた。
「終わりにしたいのか?」
彼から出た一言にカチンとくる。
「優也が、先に契約は終わりだって言ったのよ」
「あぁ、言ったな」
悪びれる様子もなく、こちらの怒りを受け流す言い方が更に頭にくる。
「だから、私は、私なりに頑張って受け入れようとしたのに、なんなの?終わりにしたいのか?ってなんなの⁇」