駆け引きは危険で甘く、そしてせつなくて
それでも、重い腰を上げる気にならなかったのは、彼女は俺のことが好きだと思っていたからなのだが、その余裕もある現場に遭遇して消えた。
気を許した表情で、男に頬を触らせている。
あの男…危険だ。
余裕なんてかましている場合じゃない。
いつも会社で見る彼女とは違う派手めの化粧。
彼女の本気度が見えた気がした。
俺を好きだと思っていたのは、気のせいだったのかと愕然ととしていた時、彼女が俺に気がついた。
驚いた表情の後、悲しげな今にも泣きそうな顔で店を出て行く姿を追いかけずにはいられなかった。
彼女を捕まえることはできなかったが、親しそうにしていた男も彼女を追いかけて来ていて目が合う。
敵意むき出しでお互い挑んで、男から彼女の気持ちを教えられ、彼女の口からじゃないのが残念だが、俺の決意を固めてくれた。
どんな手を使っても、手に入れてみせる…
こうして、彼女は俺の腕の中で安心しきった表情で目を閉じているだ。
「んっ…寝てた?」
「10分程気を失っていただけ」
しばらくして、理解してきたりいさは掛け布団を頭上まで持ち上げ頭まで隠して、ゴニョゴニョと何か言っている。
聞き取れないが、悪態をついているらしい。
「好きだから、仕方ないだろう。明日は、一緒に出社しような」
完…