月が綺麗ですね
「...これでいいわ。コピーして副社長にお渡しして」

「了解です」


私は敬礼の真似をする。秘書室での仕事にも慣れ、そんな風におどける余裕も出て来ていたのだけれど、相手を間違えたらしい。


「それ...重役さんがいる時にやったら...分かってるわよね?」

イライラしたように前髪をかき上げ、低く冷たい声が返ってきた。


「疲れてる時に、下らないことしないでよ」

「はい。すみません」


心の中でペロンと舌を出す。

飯塚さんは秘書に徹しすぎているのか性格なのか、日頃から冗談があまり通じないことを忘れていた。

思わず肩をすくめる。


「重役がいないからやったのよね?進藤ちゃんは」


北林さんが私の肩に後ろから両手を乗せてくる。


「き、北林さん!?」


ビクンと肩を揺らし驚いて振り向くと、


「仕事の邪魔をしないでくれるかしら?」


飯塚さんはあからさまに不機嫌そうな表情で北林さんを睨みつけた。


「おお怖っ!!」


笑いながら彼女は私たちから離れて行く。
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