月が綺麗ですね
「...いや。飯塚、疲れているはずだからもう帰っていいぞ。それを言いに来た」

「えっ!?」


飯塚さんの頬がわずかに赤くなる。


「わざわざそれを言いに、こちらへいらしたんですか?」

「ああ。俺の仕事はまだ片付きそうにないし、部屋の掃除も進藤にさせるから、君は帰ってくれ」

「ありがとうございます。ですが...」


戸惑いがちに、飯塚さんは副社長を見上げる。

副社長はそんな飯塚さんをその視界にしっかりと捉えた。


「直接言いに来ないと、君は遠慮して帰らないと思ったのだが、やはりそうのようだな」

人差し指で眼鏡のフレームを直す。


「そんな、私のことを分かってくださってわざわざ...」


飯塚さんの瞳はあっという間に潤みだしてきた。


「...遠慮だなんて。私はただ秘書としての仕事を全うしたいだけで...それに副社長もお疲れですのに、先に帰るなんて出来ません」
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