月が綺麗ですね
遠くで車のクラクションの音が聞こえる。

どこかで信号が点滅している。

私たちに関係なく世の中は動いている。なのに、ここは...私たちだけ時間が止まっているみたい。


あなたの唇はいつも私の時間を止めてしまうのは何故?

燃える想いが切なくて苦しいのはあなたのせい?


思わず彼のシャツの胸をギュっと握てしまう。


私は彼の温かい胸から離れたくなかった。

彼も私の体をずっと抱きしめてくれていた。


.....けれど、沈黙を破るようにガタンとエレベーターが動き出す音が闇に響くと、ゴンドラの明かりが階下へと消えてゆく。

この階に誰かが帰って来たとは限らないけれど、人の気配を感じさせた瞬間が私たちが時間のある世界に帰っていく別れの合図となった。


そっと私から彼は体を離した。


「しっかり休むんだぞ」

「はい」

「容態が急変して苦しくなったら、遠慮しないですぐに俺に連絡を入れろよ」

「はい」


見つめ合うと、彼は別れを惜しむように言葉を絞り出した。


「さ、部屋に入ってくれ」
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