月が綺麗ですね
鍵がかかる音を聞いて立ち去るのが彼の習慣だった。

『心配症にもほどがある』以前私は笑ったことがある。

『風花はそそっかしい所があるからな。ちゃんと鍵をかけたか確認しないと』彼は平然と笑い返した。


そんな他愛のないことさえ、幸せに感じてしまう私がいる。

愛される幸せ。けれど私だってあなたをそれ以上に愛したい。

果たして私はそう出来ているのかな?


鉄の扉に手を添えて瞳を伏せると、鍵へと指を伸ばす。



カシャンと鍵がかかった音がすると扉の向こうから、


「おやすみ」


彼の声とコツコツと廊下を歩く音が聞こえた。


「おやすみなさい」


私は彼の背中を瞼の裏に想い描きながら静かに答えたのだった。
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