月が綺麗ですね
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私が徹さんと話をする時、二人きりの時でも普通の恋人同士のようにタメ口を使わないのには理由があった。

それは仕事中にうっかりタメ口で喋ってしまうのを防ぐためだ。

落ち着いてゆっくり話す時などは意識してヘマをすることはないと思うのだけれど、慌てていたり何かの拍子にうっかり口のきき方を間違えたら、それはとんでもない事態を引き起こす。


飯塚さんの怒った顔。それにざわめくお姉さま達。
必死に弁解する自分の姿。


修羅の映像が容易に浮んでしまう。

それに私たちの関係はまだ秘密にしておきたかった。

結婚を考えないわけでは無いけれど、急いでもいなかったし気恥ずかしいところもあった。

なにせ私は秘書室配属初日に、『玉の輿なんて興味ありません』みたいな啖呵(たんか)を三浦さんに切ったのだから。


徹さんは徹さんで『案外新鮮だな』と恋人同士としてはアンバランスな会話を楽しんでいるところがあった。


だから休日でもそれは例外ではない。
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