月が綺麗ですね
神聖で凛とした空気が張り詰める空間で、いつしか私たちは会話をすることを忘れていた。

壁を伝う水音だけが耳に届く。


私はこんな教会を初めて見た。

テレビや映画、画像などでよく見るタイプのものでは全然ない。

そこにはステンドグラスや十字架、マリア像などは一切なかった。

ヨーロッパに多くあるゴシック様式とも違うし、モダニズムとも違うみたい。
すべてが石造りなのに、どこか懐かしくて暖かみがあるのは一風変わった建築様式のせい?

薄暗い室内でひっそりと明かりを灯すロウソクの光が壁に反射して、キラキラと幻想的で乙女心をくすぐる。


「こんなところで式を挙げたいな」


思わず口をついていた。


無言で徹さんは私の手をとり向かい合う格好になった。


「進藤 風花を一生愛することを誓う」


まるで宣誓文のようなセリフを徹さんが紡ぎ出す。


「結婚式でもないのに、なんだか照れちゃいますね」


頬を赤らめて照れ笑いをする。
< 177 / 316 >

この作品をシェア

pagetop