月が綺麗ですね
「俺の挨拶どうだった?お前の素直な感想を聞かせてくれ」

私たちは並んで廊下を歩く。


「はい。とても堂々としていて、声にも張があって内容も完璧でした。社長には申し訳ありませんが、副社長のほうが良かったと思います」

「上出来だ」

「はっ?」


彼の言葉の意味が分からず、私は怪訝な顔をして徹さんを見る。


「以前のお前だったらそこまで俺を褒めてくれたかどうか」

「そんなことありません」

「そうかな?以前、俺を好きなくせに『夢中じゃない』と言ったじゃないか。自分の心に素直になったな」

「それとこれとは話が違いますっ」


そんな昔のこと、忘れていたのに。


「どう違うんだ?簡潔にしかも論理的に説明してもらおうか?」

「...私が出来ないと思って言ってるんですね」

「俺はそんなに根性が悪いか?」

「知りませんっ」


プイっと横を向く。
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