月が綺麗ですね
困惑する私とは対照的に、いがちゃんはさっきから本当に楽しそうだ。それは副社長室に来たからだけではどうもなさそうだ。


「ねぇ、ソファーセットがあるけど、いつ使うの?来客はここへは呼ばないでしょう?」

「うん。重役さんとのちょっとした会合とかかな。ここでお食事をされることもあるし」

「へー、でもさぁ...」


いがちゃんは目を細めていやらしい顔をする。


「な、何よ?」

「男女が二人きりだったら...。ここで出来ないこともないよね?」

「意味不明なんですけど?」

「秘書を連れ込んで、押し倒しちゃうとか?」


一瞬、自分が机の上に押し倒されたことを思い出した。


「まさか...副社長に限ってそんなことは無いと思うよ」

「どうかしら?」


意味深な笑顔だ。


でもさっきからこみ上げてくるものは何なのだろう?


それは私を悲しみのふちに追いやり、苦しめてくる。しかもいがちゃんは更に私を追い込む。


「ねぇ、副社長って背中にほくろあるの知ってる?」

...!?


「ねぇ、知ってる?」

「...知らない」

「そっか、知らないのね。彼が案外寝相悪いことも、じゃあ知らないわよね?」


目の前が真っ暗になった。

ほくろ?寝相?

私の指は自然に震えていた。


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