月が綺麗ですね
低くなった視界には、先のとがった黒いロングノーズのビジネスシューズが見える。

そしてそれはゆっくりと近づいてくる。


「新人か」


低く落ち着いた声が耳に届く。


飯塚さんが頭を上げるのと同時に私も頭を上げる。


「はい。本日から副社長付の秘書になりました、進藤 風花です」


飯塚さんが先に答える。それに続いて私も慌てて口を開く。


「し、進藤....」


「自己紹介はいい。時間の無駄だ」


うっそ...。


私を見ることなく、副社長は飯塚さんに持っていた紙袋を渡す。


「先方からの心遣いだ。適当に処理してくれ」

「はい」


慣れた手つきでそれを受け取ると、飯塚さんは副社長の後へ続いて歩き出し、慌てて更にその後を私が追いかける形になった。
< 26 / 316 >

この作品をシェア

pagetop