月が綺麗ですね
「待って、弘くん」


私は彼の腕を引っ張るけれど、弘くんはそれを完全に無視してむしろ振り払った。


「何か君は勘違いしているみたいだな。それに風花、お前は何でこの男といるんだ?」


落ち着いた声で徹さんが弘くんと私を睨む。


「じゃあ、それはなんなんだよっ!」


興奮した弘くんは徹さんの持つ紙袋を指さした。


「五十嵐へのプレゼントかっ!?」


珍しくいがちゃんが戸惑い焦っている。


「違うわよ菱倉くん。これはその...確かに指輪を買ったけど...」

「香奈っ!余計なことを言うなっ!!」


もうこの場はぐちゃぐちゃだ。人目だってある。私たちは通行人の興味本位の視線にさらされていた。


「風花答えろ!!どうしてお前は菱倉と一緒にいるんだっ!?」

「徹さんに言われる筋合いないです!あなただって、いがちゃんと宝飾店から出て来たじゃないですか!」


徹さんは声を詰まらせた。


「そ、それは...」


でも、そんなことはもうどうでも良かった。いがちゃんの言葉が私を激しく傷つけた。
ううん、心を切り裂かれた。


『指輪を買った』

そっか、そうなんだ。
< 277 / 316 >

この作品をシェア

pagetop