月が綺麗ですね
「──ごめん俺、つい興奮しちゃってさ」

「ううん、ありがとう。私のためにかえって嫌な思いさせちゃったね」

「いや」

「たとえ二股をかけられていても、交際を望んだのは私のほうだから。でも選ばれたのは私じゃなかったね」


弘くんはポケットに手を入れながら、少し先を歩く。


「俺マジで風花のこと...」


弘くんの気持ちは嬉しかったけれど、それでも、こんな目に遭わされても私は徹さんが好き。この気持ちは多分何があっても変わらない。変わらないけど...。


.....潮時かもね。



「...田舎に帰ろうかな。もう疲れちゃった」



私はビルの谷間からのぞく都会の少し冷たくて無機質な空を見上げた。


きっとたくさんの恋がここで生まれて、消えて行く恋もたくさんあって。私の恋も消えて行くのかな?誰にも悟られずに。でも、この街はそんなことなどお構いなしに、いつもの景色を変えることはないんだよね。




都会の空ってこんなに、にじんでいたっけ?


違って見えるのは、私の心が微妙に変化したからなんだよね。

それは、この街では取るに足らないことなんだよね。
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