月が綺麗ですね
──仙台の実家に着いたのはその日の夜遅くだった。


「だだいま」


誰もいない玄関から中へ呼びかける。


しんと静まり返った廊下から私を迎えてくれる人はいない。


古い木造の家は独特の匂いがある。

この香りを嗅ぐと、”ああ、帰ってきた”っていつも思う。


今日もそうだ。


どこかかび臭くて、懐かしい香り。



靴を脱ぎ、玄関の小窓から差し込む街灯の明かりをたよりに壁のスイッチに指を伸ばす。


パチンと言う音が、暗闇から私を開放してくれた。
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