月が綺麗ですね
あの石造りの教会だった。以前二人で愛を誓い合った、あの教会。


「お前、ここで式を挙げたいと言っていただろう?だから今からここで式を挙げる」

「えっ、そんないきなり。でもなんにも用意してませんけど?」

「用意なら出来ているわよ」


いがちゃん。それに、弘くん?


「ドレスは風花好みの物を徹が何点か選んだの。だからその中から好きなドレスを選んで」

「あっ、は、はい」


腕を引かれ更衣室へと入る。

驚く時間も与えられず、ドレスを着せられ、髪をセットされ、お化粧されて...。


「──まさか、風花と菱倉くんに見られるとは思わなかったわ」

「銀座でのこと?」

「そう。徹が『風花と二人きりで式を挙げたい』って言いだして。もちろん私は反対したけどね。...徹の熱意に負けて渋々手伝ったのよ。それであの店で結婚指輪を買ったの。心配しなくていいからね。選んだのは徹だから」

いがちゃんは思い出しながら笑う。


「菱倉くんは勘違いして怒り出すし、風花は田舎に帰っちゃうし」

「だって腕組んでたから」


ショックで何もかもが、どうでも良くなっちゃったんだよね。


「今どき兄妹で腕を組むのなんて、普通でしょ?」

「う~ん?微妙」

「でもさぁ、色々あったほうが絆って深まると思う。だから私に感謝して」


...うっ。なんて都合のいい解釈。


「...まあね。私、徹さんのこともっと好きになったかも。私たちの愛だって絶対深まったと思う」

「のろけ話は私の前でしないでね。これでも傷心なんだから」

「うん」


私たちは笑い合った。いがちゃんの顔にはもう以前のように私をライバル視するような色は無かった。


「悔しいけど幸せになりなよ、風花。それと徹をよろしくね」

「う...ん」


涙が頬を伝った。


「バカね、お化粧崩れるわよ」

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