月が綺麗ですね
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いがちゃんと弘くんはその日のうちに東京へ帰って行った。

どうもいがちゃんが弘くんに積極的に迫っているように見えたのだけれど、もう新しい恋を見つけたらしい。でも、万が一、いがちゃんと弘くんが結婚したら、弘くんは私の弟になるの?

ぷっ。やだなぁ、それ。ただでさえ面倒な小姑がいるのに。

でも二人はお似合いかも?



「何を考えている?」

徹さんが私を優しく包む。


「...いいえ」


私たちはそのまま軽井沢のホテルに宿泊していた。


「まさかこんな準備をしてくれていたなんて、驚きました」

「一分一秒でも早くお前と結ばれたかった」

「私も」

「お前への愛の深さを思い知れ」

「それって、嫌みに聞こえますよ」


私が彼のもとを去ったから。


「半分はそうだ。だが、もう半分は言葉の意味そのままとってもらって構わない」


彼は笑う。

意地悪だけど、優しいんですよね。徹さんは。


「二人で式を挙げたが、お互いの両親、親戚、そして会社関係の人たちを招いて改めて式と披露宴はしなければならない。忙しくなるぞ」

「はい。でも徹さんのご両親は突然のことに驚かないでしょうか?」

「あの二人はハワイでのん気に暮らしている。文句を言うなら日本の土を踏ませないさ。だが俺が選んだ女性だ。文句のつけようは無いと思うがな」

「そんな...」

うちの両親もきっと驚くだろうな。なんて言おうかな?

私が迷っていると、

「風花の両親には承諾をもらっているから心配するな」

そう言われた。


「えっ!?いつの間にうちの親に会ったんですか?」


私の疑問は当然のものだ。

驚く私を涼し気な瞳でチラっと見ると、「さあいつだろうなぁ?」と意地悪な顔をして答えた。

「ご両親には『改めて式をしますので、このことはご内密に』とお願いしておいたんだ」

「ウチの親、まさかとは思いますが...反対とかしませんでしたか?」

彼は口の端を歪める。


「俺を誰だと思っているんだ?」


...ですよねっ。

私は笑顔で彼を見つめた。
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