月が綺麗ですね
──スイミングを堪能した副社長は私をホテルのバーラウンジへ連れて来ていた。

彼の髪はまだ少し濡れている。きちんと乾く前に出て来たようだ。濡れた前髪が気になるのか、時々無造作にかき上げる仕草をする。


暖房の効いた室内とはいえ、これでは風邪をひいてしまわないかと心配になってくる。が、気楽に話しかけられる間柄ではないせいで、私は口をつぐんでしまう。



「アルコールの好みはあるか?」

「あまり強くはないので、軽めのお酒がいいです」


オーダーを済ませると、副社長は私から視線をそらすように窓の外へと顔を向ける。



窓へと向けられた二客の椅子。そこからは東京の夜景が一望できる。
ビルに囲まれた日比谷公園の緑がコンクリート砂漠の中にオアシスを作っている。


と、そっと私の前にサーモンピンクのカクテルが置かれた。


「スプモーニだ。カンパリベースでアルコール度数も8度以下。グレープフルーツで割っているから口当たりも爽やかで女性に人気のカクテルだ」

「確かに可愛らしですね」


副社長は女性の扱いに慣れているようだ。
まあ、これだけのイケメンなのだし彼女もいるだろうから、当然と言えば当然かも知れないけれど。
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