月が綺麗ですね
「ふ、副社長!?進藤さん!?」


廊下ですれ違った三浦さんが、驚いたように彼と私に交互に視線を送るが、無言のまま副社長はちょうど来たエレベーターへ私を押し込む。


「あ、あのっ!?」

「心配するな、別にお前を襲うわけじゃない」

「は、はぁ...」


そりゃそうでしょ。そんなことしたら犯罪ですから。


チンと言う音と共に着いたのは15階。衣装サンプル管理課。
ここには過去にプレスリリースした洋服が一通りストックされている。雑誌に掲載されるようなことがあれば、ここの服を使用している。いわば保管庫のような所だ。


「西山さん。彼女のサイズにあった黒のビジネススーツを3着、至急用意してくれませんか?」


「は、はぁ...」


少しいぶかし気な表情で、西山さんと呼ばれた40代くらいの女性は私の全身を何度も上から下まで観察した後、洋服で埋め尽くされた室内へと入って行く。
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