月が綺麗ですね
程なくして、「これでよろしいでしょうか?」
西山さんがハンガーにかかった黒のスーツを持って現れた。


「プレタでよろしいですよね?」

「ええ、ありがとうございます」

西山さんからスーツを受け取ると、振り返りざまに私に差し出してくる。


「これを着ろ」

「あ...の?」


驚く私以上に、西山さんは更に驚いていた。


「副社長、スーツをどうされるおつもりですか?」

「彼女に着せます」


一瞬西山さんは『はっ?』っと表情を歪めた。


「着せるとは?ここの服はプレス撮影用です。彼女はどう見てもモデルではありませんよね?」

「ええ、私の秘書です。このスーツは彼女の所有物となっても問題ないですよね?」


涼しい顔で副社長は答える。


「秘書に差し上げるとおっしゃるのですか!?ここの服は必ず一着はサンプルとして保管しておかなくてはなりません」

「そうですね。ですが今年のモデルはもうすぐここに届きます。ビジネススーツに関しては旧モデルは新モデルと入れ替え後、廃棄のはずですから持ち出しても問題ないと思いますが」

「ですが...」

「使用許可書にサインをすればいいですか?」

「いえ、そう言う問題では...」
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