月が綺麗ですね
私の髪は濃いめのブラウンでセミロング。毛先を弛めにカールした髪を副社長はゆっくりとすいていく。


「だが、お前が泣くのであれば俺は助けに行く。しかしそれは俺の女であることが条件だ」


以前にも、『彼女以外の女性にはエスコートしない』って言われたっけ。


「どうして、そんなに彼女にこだわるんですか?」


副社長を見上げると、彼はスッと視線をそらした。


「それにどうして私なんですか?飯塚さんが副社長のお妃候補ナンバーワンだって聞きました」


彼は私の髪に触れていた手をそっと引いた。


「理由を話す必要性を感じない」

「えっ?」

「つまり、お前が俺の女であれば話さなければならないだろうが、そうでないのなら話す必要があるか?今お前が聞いていることは、俺に関するプライベートな質問だ」

「そ、それは...」

「仕事に戻ってくれ」


クルリと私に背を向けると、無言でパソコンのキーボードを叩き始めたのだった。
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