月が綺麗ですね
私が秘書室に配属されてから一ヵ月以上が経っていた。まだまだ仕事に慣れたとは言えないけれど、三浦さんは私に親切に仕事を教えてくれていたし、飯塚さんやお姉さま達とも表面上は仲良くやっていた。


以前三浦さんが、『ここのみんなは仲も良いし、辛いことはないわ。表面上はね』
と言っていたのを徐々に理解し始めていた。


「表面上か...」


私は混雑が引いた社食でサラダにフォークを差しながら、つい独り言を漏らす。

大抵は三浦さんと一緒に昼食を取るのだけれど、今日は社長の同行で外出をしていたので独りで遅い昼食を取っていた。
鳴りやまない電話にうんざりしながら、スキを見つけてようやく昼食にありつけた感じだった。


明るい光が差し込む社食を見渡せば、広い空間にポツポツと人影が見える。静けさを取り戻した食堂では、私と同じく独りで食事をしているが社員が目につく。

独りの背中ってどうしてあんなに寂しそうなんだろう?


白のカッターシャツやグレーのジャケット。それらの背中を見つめていると哀愁が漂っているように見えるのは、私だけだろうか?
家族や人生をその背中に背負っているように見えるのは、私の勝手な想像だろうか?

ってことは私も他の人から見たら、その背中には悲哀が漂っているのかな?

ブルブルっと体が震える。若い身空でそんなこと...。
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