月が綺麗ですね
「ここ良い?」

「あ...弘(こう)くん。どうぞ」


目の前にランチプレートを置いて座った男性。
同期の菱倉 弘毅(ひしくら こうき)くんだ。彼は人事部に所属している。

人総に配属されると出世が早いと言われているが、恐らく弘くんもそうだろう。将来の展望はかなり明るい。悪くても子会社の社長くらいにはなると噂されている。

覇気があり常に前向きに物事を捉える性格。おまけに同期の中ではイケメンときているから、同期はもとより先輩、後輩の女の子からも人気だ。


「どう?仕事には慣れた?」

「...まーね」


ため息をつきながら、私はコーヒカップに手を伸ばす。すっかりぬるくなってしまって美味しくない。


「...大変か?」

「大変、すご~く大変」

「だろうな」


肩をすくめる弘くんは苦笑いだ。


「弘くんも知ってたの、秘書室のこと?」

「...別に」


言葉を濁し、視線をよそへと向ける。

怪しい。これは絶対知ってたな。
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