月が綺麗ですね
「同期を大奥へ入れた気分はどう?」

イヤミたっぷりに問いかける。

そんな事を言われても、弘くんにとってはいい迷惑なのは分かってる。彼は上司の命令に従っただけなのだから。

でも言わずにはいられない。


「俺だって好きで風花を大奥へ送り出したわけじゃないよ。お前とは仲良かったし。...江戸時代に恋人を大奥へ差し出さなければならない男の気持ちが分かる気がしたよ」

「で、その副社長から私を取り返す気概はないのかな?」


コーヒカップを置くと、彼を正面から睨みつける。

私と弘くんは恋人関係では無い。ただ同期の中では一番仲のいい男性だった。


「あるわけないじゃん。俺やっぱり出世したいし」


だよね。弘くんは一介のサラリーマンだもんね。

しょせん他人。薄情さを恨んでも仕方がない。

弘くんには弘くんの人生設計があるはずだ。美人な奥さんに、子供がいて、マイホームを買って。まあそんなところかな?

あはは。我ながら乏しい想像力。

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