月が綺麗ですね
「それに俺が六ツ島さんに勝てるわけないしな」

アジフライに箸を伸ばすと、ガブリと被りつく。


どうして副社長は私を秘書室に呼んだんだろう?

きっと聞いても答えてはくれないんだろうな。


諦めて私は弘くんを見つめる。


「それに、『お前を好きでもないしな』でしょ?」


更にイヤミ攻撃を加えるが、弘くんはそれには答えない。無言でお味噌汁をかき回している。


「私は人身御供として秘書室に差し出された、かわいそうな女です...」


いじけてみても、誰も救ってはくれないよね...。

かわいそうかぁ。そう思っているのはどうやら私だけみたいではあるけれど。


無言の弘くんに会話の行き詰まりを感じ、片肘をついて視線をさまよわせていると、


「弘先輩、こんにちはっ」


後輩らしき女の子からニコニコで声を掛けられて、彼も笑顔で答える。


「知ってる子?」

「いや」

「人事は顔が広いもんね、モテモテじゃん。ねぇ、どうして彼女作らないの?」


人気者なのに、弘くんには彼女がいなかった。大学時代はいたらしいけれど、社会人になって別れてしまったらしい。まぁ、良くあるパターンだよね。
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