月が綺麗ですね
「別に。お前こそどうして彼氏がいないんだよ?経理の前田さんは振ったのか?」

「ちょっと、人聞きの悪い言い方しないでよっ」


キョロキョロと辺りに視線を配り、近くに人が居ないことを確認し私はホッとすると、無意識に小声になる。


「それになんで弘くんが前田さんとのこと知ってるの?」

「人事は色んな情報が入ってくるんだよ」


...納得。ってそうじゃなくて、あなどれないぞ人事部。空恐ろしさを感じる。


「あれは何度かお食事に誘われて、一度だけご馳走になったけど別に振るとかではないし、前田さんもそれ以来誘って来なくなったから...」

「世間ではそれを振るって言うんだけどな。で、前田さんには気のない事を伝えたわけだ」

「...まあね。だって好きでもない人に思わせぶりな態度はかえって失礼じゃない」

「お前のそんなとこ、いいと思うぜ」

「あ、ありがとう」


急に褒められて、ちょっと驚いた。いつもみたく明るく冗談ぽく無かったから。下を向いて少しシリアスな弘くんにこっちが戸惑ってしまった。


「ダラダラと気持ちを伝えられずに引き延ばされるほうが男としては嫌だし。メシおごってくれる男としてキープする女もいるしさ」

「弘くんに対してはみんな本命でしょ?」

「...どうだか」


片肘をついてため息をつく弘くん。
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